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福島地方裁判所会津若松支部 昭和35年(わ)13号 判決 1960年8月01日

被告人 青柳長次郎 外三名

主文

(1) 被告人川窪栄、同白岩庄助、同青柳長次郎を各懲役一年に処する。

(2) 被告人斎藤作江を罰金五千円に処する。

(3) ただし、被告人川窪栄、同白岩庄助、同青柳長次郎に対し、この裁判が確定してから四年間右各刑の執行を猶予する。

(4) 被告人斎藤作江において、右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

(5) 訴訟費用は被告人川窪栄、同白岩庄助、同青柳長次郎の連帯負担とする。

(6) 本件公訴事実中、被告人川窪栄、同白岩庄助、同青柳長次郎は共謀のうえ、法定の除外事由がないのに福島県知事の許可を受けないで、昭和三十四年十一月九日ころから同月十四日ころ迄の間および同年十二月十日ころから同月十七日ころ迄の間、本件山林においてそれぞれ二十五年生くらいの普通林たる杉立木を伐採したとの点につき、同被告人らは、いずれも無罪。

理由

(事実)

被告人川窪は、大阪府なる工業学校第二学年を中途退学後、会社員または会社経営等をしていたもの、被告人白岩は、本籍地の小学校を卒業後、農業にたずさわり、一時横須賀海兵団に入つたが、復員後ふたたび家にあつて農業に従事し、昭和三十三年ころ知人の刑事事件に関係して相被告人青柳長次郎を知り、その事務嘱託となつていたもの、被告人青柳は、大正九年中央大学を卒業後会社員となり、そのご弁護士を開業し、大正十四年ころから東京第二弁護士会に所属していたもの、被告人斎藤は、北山村尋常小学校高等科を卒業後、実兄斎藤清多郎の養子となり、農業に従事していたものであるが、被告人川窪と右斎藤清多郎の実弟なる斎藤作雄との間に福島県耶麻郡北塩原村大字大塩字頭無八千四百三十九番ロ号山林八町八反一畝十七歩の帰属をめぐつて民事紛争を生じ、これがため右斎藤作雄においては被告人川窪を相手方として管轄裁判所たる福島地方裁判所会津若松支部に対し、該山林につき立入りならびに処分禁止の仮処分申請をし、該事件は、同庁昭和二十八年(ヨ)第一五五号事件として係属中、同年十二月十四日被申請人たる被告人川窪に対し、右山林地内に立入り、該山林地上の杉立木ならびに雑木につき売買、贈与、伐採、搬出等その他一切の処分行為を禁止し、かつ右物件を申請人の委任する執行吏の占有に移し、該執行吏をしてこれが保管をさせる旨の仮処分命令が発せられ、そのころ執行せられて、ここに右山林ならびに地上立木は同裁判所所属執行吏小日山政義の占有保管するところとなつたが、被告人らはいずれも右事実を熟知しておりながら、その間、

第一、被告人川窪は、単独で昭和三十三年四月ころ右山林中の杉立木の一部を無断伐採して処罰されていたにもかかわらず、同年十月二十日前示紛争につき第一審訴訟において勝訴するや、これに乗じ、いまだ前記仮処分が解放されないのに、さらに間伐すると称して右山林上の立木を盗伐しようと企て、

(一)  昭和三十四年四月二十五日ころから同年五月二日ころまでの間右山林に立ち入つたうえ、同所において情を知らない人夫関本実らを使駆して右執行吏保管にかかるその産物たる杉立木八本くらい、朴立木十五本くらい合計約十一石を伐採し、

(二)  同年六月末ころから同年七月上旬ころまでの間同山林地において情を知らない船越雄嗣らを指図して右執行吏保管にかかるその産物たる杉立木約百三本合計約十石を伐採し、

もつて森林においてそれぞれその産物を窃取し、

第二、被告人川窪においては、そのごも右山林を他に処分して相当の金策を得たいとの意向であつたが、たまたま昭和三十四年九月上旬ごろ会津若松市栄町なる元司法書士長尾憲吉の事務所において被告人白岩と知り合い、同被告人から事件を被告人青柳に委任して前記斎藤作雄との関係をも一挙に解決すべきことをしようようされたので、今後同被告人に依頼して右仮処分の取り消し方を進行させる一方、右山林の買主を物色することとし、その結果同年十月十一日ころにいたり渡部仙一なる者を紹介されるや、そのころ右長尾の事務所において被告人白岩ならびに長尾らの同坐する席上右渡部に対し、前示第一審の勝訴判決等を示しながら、現に右山林は仮処分中で執行吏の保管とはなつていても、早晩解放され、これを買いうけても支障がない旨を告げ、被告人白岩も同様の口添えをして、これが買受けを勧誘し、翌十月十二日ころ被告人川窪と右渡部との間に右山林に関する売買契約を締結するにいたらせ、ついで同日ころ同市栄町千二百六十七番地福長旅館こと半沢辰男方において被告人川窪、同白岩ならびに右渡部が、おりから事件打合せのため会津若松市に立ちよつた被告人青柳と会談したさい、席上同被告人が「仮処分は取り消すことができる、伐採も売却もどんどん進めたらいいだろう」と仮処分命令を無視した発言をし、さらに同月二十日ころ被告人川窪、同白岩において上京し、被告人青柳の事務所において同被告人と事件について面談したさいにも、前同様同被告人から「心配はいらない、伐採して売つてさしつかえない」、「執行吏保管中であるが、伐採売却しても問題は起きないだろう」などと仮処分中の立木の伐採を暗に強行すべきことをすすめられるや、そのころ被告人川窪、同白岩においても、いよいよ右強行の決意をかため、ついで同被告人らから右渡部に対し右被告人青柳の意向を連絡してその同調を得ここに被告人川窪、同白岩、同青柳は、共謀のうえ、右渡部とともに前記執行吏が占有保管する右山林地上の立木を伐採盗取しようと企て、

(一)  同年十一月九日ころから同月十四日ころまでの間右山林地において、右被告人らの意をうけた右渡部において情を知らない人夫数人を指揮して右執行吏保管にかかるその産物たる杉立木合計約百七十三石を伐採し、

(二)  同月十四日正午すぎころ、所轄喜多方警察署勤務巡査部長佐藤操より右盗伐を現認せられ、強硬にその中止方を警告せられるや、前記渡部においては、引きつづき右被告人らとともに伐採を強行することを肯じないところから、一時右の伐採を中止するのやむなきに立ちいたつたが、そのころ被告人青柳より「警察や検事局は民事に指図の権限なし、強行してよし」との電文をよせて被告人川窪ならびに同白岩に対し伐採搬出の続行をうながし、他方被告人川窪においても伐採の再開をつよく希望するので、ここに同被告人ら三名は右渡部を除外しても、かねての計画のとおり、右山林の伐採を強行しようと企て、同年十二月十日ころから同月十七日ころまでの間同山林地において、被告人白岩自ら情を知らない高橋勲ら人夫数名を使駆して右執行吏保管にかかるその産物たる杉立木約七十石を伐採し、

もつて森林においてそれぞれその産物を窃取し、

第三、被告人斎藤は、相被告人川窪らが判示第二のとおり、自己の実兄たる斎藤作雄の立木を盗伐したことをいたく憤慨し、いずれもその贓物たるの情を知りながら同年十二月十八日ころから翌十九日ころにわたり、右相被告人らによつて盗伐された杉材四十三本合計約七石を情を知らない五十嵐守外二名とともに馬および自動三輪車により右山林地から喜多方市山ノ神二千四百十九番地白井材木店まで運搬させ、もつて森林窃盗の贓物運搬をし

たものである。

(証拠)(略)

(適条)

被告人川窪、同白岩、同青柳の判示各所為は、いずれも森林法第百九十七条罰金等臨時措置法第二条第一項(判示第二事実につき刑法第六十条をも適用)に、被告人斎藤の判示所為は森林法第二百一条第二項罰金等臨時措置法第二条第一項にそれぞれ該当するが、前者につき所定刑中懲役刑を、後者につき所定刑中罰金刑をそれぞれ選択し、被告人川窪、同白岩、同青柳につき、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文第十条により最も重い判示第二(一)の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、同被告人ら三名をいずれも懲役一年に処し、被告人斎藤につき所定罰金額の範囲内において同被告人を罰金五千円に処し、被告人川窪、同白岩、同青柳に対し、いずれも情状刑の執行を猶予するのを相当と認めるので同法第二十五条第一項により、この裁判が確定してから四年間右各刑の執行を猶予し、被告人斎藤において右罰金を完納することができないときは、同法第十八条により金二百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、訴訟費用については、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、同法第百八十二条に則り、主文第(5)項のとおりそれぞれ被告人らに負担させる。

(一部無罪について)

本件公訴事実中、被告人川窪、同白岩に対する昭和三十五年一月十九日付起訴状公訴事実第二および被告人青柳に対する同年一月二十一日付起訴状公訴事実第二は、いずれも「同被告人らは共謀のうえ、法定の除外事由がないのにかかわらず、福島県知事の許可を受けないで、(イ)前記第二(一)記載の月日ころ(判示第二(一)記載のころ)本件山林地において二十五年生位の普通林たる杉立木を伐採し、(ロ)前記第二(二)記載の月日ころ(判示第二(二)記載のころ)同所において二十五年生の普通林たる杉立木を伐採し」、その罪名として森林法違反、その罰条として森林法第十六条第一項、第二百六条、第十五条、第七条第四項第四号、昭和二十六年農林省令第五十八号に該当するというにあれども、普通林の立木を伐採したばあいの罰則は、森林法第二百八条であつて、検察官主張のように同法第二百六条ではない。しかし、森林法第二百六条といい、同法第二百八条といい、そのいずれのばあいにおいても処罰の対象とされる者は、同法第十六条により同条所定の立木の伐採をするにあたり、都道府県知事の許可を受ける義務を有するもののみにかぎられる。したがつて右の許可を受ける義務のない者は、たとえ右第十六条所定の制限林または普通林の立木を伐採することがあつても、許可がないという理由でこれを処罰することは許されない。しこうして、右の義務を有するものは、同法第十六条によれば、「森林所有者その他権原に基き森林の立木の使用又は収益をする者」と規定されている。本件において、小林作雄の検察官に対する供述調書、被告人川窪栄の検察官に対する昭和三十五年一月十八日付供述調書、被告人白岩庄助の検察官に対する同年一月二十日付供述調書によれば、被告人川窪、同白岩、同青柳らが判示第二記載のごとく本件普通林たる立木を伐採するにあたり、あらかじめ右第十六条所定の許可をもとめなかつたことは、じゆうぶん窺われるけれども、判示のごとく、本件山林は、昭和二十八年十二月十四日福島地方裁判所会津若松支部の発した仮処分命令により、被申請人たる被告人川窪はその立入りを禁止され、その事実上、法律上の各処分を禁止され、かつそのうえ、その占有は同裁判所執行吏小日山政義に移され、同執行吏の保管するところとされていたのであるから、同被告人は、たとえ自己が右山林の所有者であると主張していた事実があつたとしても、これをもつて同法第十六条所定の許可を受ける義務を有する者の範囲に属すると解することはできない。そして、その余の各被告人らが、これに属しないことは多言を要しない。以上のように同被告人らは、いずれも右の許可を受ける義務をもたないから、前示説明のように、その許可なきゆえをもつてこれを処罰することができないのみならず、本件のように、森林窃盗を敢行しようとする者に対してまで、あらかじめ自己らの犯行について申告させると多く異ならない事前の許可を受ける義務を課することは、法律の趣旨ではないと解すべきである。そうだとすると同被告人ら三名に対する前示公訴事実は、結局罪とならないから刑事訴訟法第三百三十六条により右部分について無罪の言渡をなすべきである。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 工藤健作 向井哲次郎 高井清次)

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